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ターミネーターのタイムパラドックスへの考え方

投稿日:2019年11月27日 更新日:

徳本です。

『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスや因果律を考えて、わけが分からなくなった人は多いのではないでしょうか。




確かに“歴史が循環している”と考えると、『ターミネーター』シリーズにはタイムパラドックスが存在し、脚本に根本的な矛盾があるように思えます。

しかし『ターミネーター』シリーズの歴史を、“未来からの介入で上書きされたもの”と考えれば、きちんとつじつまは合うんですね。

今回はあくまで私個人の解釈であることを前置きしたうえで、『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスへの考え方について、なるべく分かりやすく解説したいと思います。

『ターミネーター』シリーズとは


『ターミネーター』シリーズとは、アメリカの映画監督、ジェームズ・キャメロン氏が手がけたSF映画シリーズであり、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏の代表作として有名です。

第1作の『ターミネーター』は製作費640万ドルという低予算映画でしたが、1984年10月26日に公開されて大ヒットを記録しました。

続く第2作目『ターミネーター2』が1991年に制作され、こちらは1作目を超える大ヒットとなり、現在でもシリーズ最大のヒット作として記録されています。

第2作の公開後は、キャメロン監督が持っていた権利を売りに出し、別の製作者の手によって第3作目を謳った『ターミネーター3』が2003年に公開されました。

しかし一度完結したシリーズを無理に再開させたためか、『ターミネーター3』は内容が破綻しており、興行的には大失敗に終わりました。

その後、2008年にはTVシリーズの『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』、2009年には『ターミネーター4』、2015年にはリブート版の『ターミネーター:新起動/ジェネシス』が製作・公開されました。

しかしこれらはどれもキャメロン監督が一切関わっていない、“ファンメイド”に近いシリーズであり、全て視聴率・興行的に失敗してしまいました。

そして2019年にはジェームズ・キャメロン氏が製作に復帰し、『ターミネーター2』の直接かつ正式な続編として、『ターミネーター:ニュー・フェイト』が製作・公開されています。

『ターミネーター』シリーズの世界観

『ターミネーター』の物語は1984年のアメリカ、ロサンゼルスから始まります。

劇中の未来世界(西暦2029年)では、核戦争後の廃墟の中、人類とそれを滅ぼそうとする機械軍が戦争を繰り広げており、指導者、“ジョン・コナー”によって人類は勝利を目前にしていました。

敵の親玉である防衛用コンピューター、「スカイネット」は“このままでは人類に敗北してしまう”と考え、ジョンの誕生そのものを阻止しようと画策します。

スカイネットはタイムトラベル装置を使ってジョンが生まれる前の時代、1984年へ“人の姿をした人間抹殺用アンドロイド”、「ターミネーター(T-800)」を送り込み、ジョンの母親である“サラ・コナー”を抹殺しようとします。

スカイネット側の動きを知った人類側もサラ抹殺を阻止すべく、敵のタイムトラベル装置を使って、抵抗軍の兵士、“カイル・リース”を過去へ送り込み、1984年の時代においてサラを巡る、カイルとターミネーターとの死闘が繰り広げられます。

続く第2作目、『ターミネーター2』では1994年に2体の、それぞれ別々のターミネーターが送り込まれ、一方は少年時代のジョンの護衛を、もう一方はジョンの抹殺を任じられて戦います。

ここまで読んでわかるように『ターミネーター』シリーズの基本フォーマットは、登場人物やアンドロイドが過去にタイムトラベルを行い、過去の時代において特定の人物を巡り、逃避行と死闘を繰り広げるというものです。

公式に“なかったこと”にされた、『ターミネーター3』や『ターミネーター4』、『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』、『ターミネーター:新起動/ジェネシス』などは基本的に『T1』、『T2』の物語を踏まえています。

これらの“ファンメイド”的作品でも『T4』を除いて、登場キャラクターが過去の世界へタイムトラベルします。

ここで問題となるのが、「タイムパラドックス」です。

タイムパラドックスとは

「タイムパラドックス」とは時間的矛盾、つまりタイムトラベルした先で何かを起こした(人間を殺した、施設を破壊した、残骸やデータを残したetc)場合、過去、現代、未来の状況と因果関係が矛盾(不一致)することです。

タイムパラドックスで有名なものが、「親殺しのパラドックス」と呼ばれるものであり、過去へ行った人物がその人自身の親を殺した場合、果たしてどのようなことが起こるのかという問題です。

もし親殺しのパラドックスが起きると以下のうち、どれかがが起こると考えられています。

  1. 両親が子供を生む前に死ぬので、子供は生まれないが、子供が生まれないのであれば両親が死なないので矛盾している
  2. 何をやっても両親は死なない
  3. 子供が誕生してやってきた世界から、両親が死んで子供が生まれない世界が分岐し、両親が無事な世界に影響はない

たとえば第1作『ターミネーター』では、未来からやってきた兵士であるカイルとサラの間に愛が芽生え、その間にできた子供がジョン・コナーであり、未来において人類に戦争を仕掛けるスカイネットは、過去でサラ抹殺に失敗したターミネーターの残骸から完成したことが描かれています。

しかしこの場合、そもそもスカイネットが存在していなければ戦争は起きず、カイルが1984年に来ることもないので、サラの息子としてジョンが生まれるはずがないという矛盾が発生しており、上記の1.に該当する事象として、たびたびファンの間で話題になっています。

また『ターミネーター2』では登場人物たちの行動により、スカイネットを開発した企業、「サイバーダイン社」が持っていたスカイネットの開発データが全て失われ、開発者のマイルズ・ダイソンも死亡します。

そしてスカイネット誕生要因である最初のターミネーターのマイクロチップ、右腕も破壊され、敵味方のターミネーターはともに溶鉱炉で消滅します。

この場合でもスカイネットが誕生しなければ、1984年へターミネーターやカイルが来ることはなく、ジョンも生まれないばかりか、劇中でのスカイネット完成阻止の行動も発生し得ないという、根本的矛盾があるとされ、こちらもタイムパラドックスとして扱われています。

なので、“なかったこと”にされた続編の『ターミネーター3』では、最終的に人類と機械の戦争が始まるというオチなので、矛盾を解消した映画として評価する声もあります。

しかし一方で『ターミネーター3』劇中では“未来は変えられない”としていることによって、『ターミネーター』シリーズ自体を否定する、以下の根本的矛盾が発生することになりました。

  • “未来は変えられない”のであれば、スカイネットが戦争に負ける未来を変えたいがために、過去へターミネーターを送り込む意味がない
  • “未来は変えられない”のであれば、必死に抹殺対象を護る必要がない(上記の2.に該当)
  • “抹殺対象を護る必要がない”のであれば、登場人物たちがやっていることは何なのか(観客が映画を観るだけ時間の無駄になる)
  • “未来は変えられない”のであれば、なぜ未来からターミネーターがやって来るのか

上記の矛盾が起こるからか、キャメロン監督が一切携わっていない『ターミネーター』シリーズでも、『T3』は早々と“なかったこと”にされています。

次の見出しからは『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスについて解説しますが、そこでは公式に“なかったこと”、あるいは正史とは別の物語とされた作品群については、考えないことにします。

以下は『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスについて、ネット上の情報を集めたうえで行った、個人的な解釈です。



『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスの考え方

『ターミネーター』シリーズのテーマのひとつに、“未来は変えられる”というものがあります。

『ターミネーター2』では、第1作目で起きた出来事により歴史が改変され、1作目の時点で最新の機体であったT-800は旧式と化し、液体金属でつくられたT-1000が最新式として登場します。

また『ターミネーター2』では、第1作目で1984年にT-800の残骸が残ったことにより、本来の歴史よりもスカイネット誕生が2年早まったという設定が存在しています。

これらを見てもわかるように、『ターミネーター』シリーズでは基本的に、“未来は変えられる”という前提で話が進んでいるのです。

問題は、“未来からターミネーターが来なければジョンが生まれず、スカイネットも消滅しないのに、なぜスカイネット誕生は阻止できて、ジョンも消滅しないのか”です。

この問題を解説するには、過去へのタイムトラベルによって世界が変化し、“もとの世界とは別の世界が生まれた”と考える必要があります。

上書きされた歴史と過去を起点とした考え方

“もとの世界とは別の世界が生まれた”という考え方は、“歴史が上書きされた”という考え方です。

『ターミネーター』シリーズでは、本来の歴史が未来からの介入によって、何度も上書きされています

『T2』の設定では、本来なら1999年だったはずの機械による宣戦布告(審判の日)が、ターミネーターが過去に来たことによって1997年に早まったとされています。

『T1』の出来事で本来とは異なる歴史が生まれ、『T2』はその時代を描いた物語だと考えられるようになっているのです。

そして『ターミネーター』シリーズを読み解く上で大切なのが、過去を起点とした考え方です。

過去と未来のどちらが先かというと、もちろん過去です。

過去はあくまで“過ぎ去った時間”ですから、ある人物が存在していたとしても、そのことに過去という時間自体が介入することはできません

たとえばジョンのいる1994年から見て、サラとカイルが出会った1984年は過去ですが、この過去の時間自体がジョンの存在に介入することは不可能です。

過去がジョンの存在に影響を及ぼすようにしたいのであれば、ターミネーターや人間などをその時間に送り込むしかありません。

そしてスカイネットは過去へターミネーターを送り、サラやジョンを殺そうとしますが、そういった未来からの来訪者が過去に着いた瞬間、もとの歴史とは別の歴史へと変化します。

もとの歴史から別の歴史へ変化すると、もとの未来は消滅し、その過去に身を置くキャラクターたちの行動によって、別の未来がつくりだされていくというわけです。

もとの歴史から別の歴史へ変化すると、もとの未来が消滅するので、もともとの未来に関する因果律(T-800はスカイネットにつくられたetc)は断ち切られます

この場合、未来から来た存在に影響を及ぼす因果律は、過去という時間のみです。

また、『T1』と『T2』を経て“スカイネットによる戦争が発生する未来を変えた”が、“ジョンが死んだ”場合も、また別の“未知の未来”へ進んでいくだけです。

つまりタイムトラベルでキャラクターがやって来るごとに、その時間軸は本来の歴史とは別のものへと変化し、また別の未来が始まっていくというわけです。

また、“ターミネーターの物語は1984年から始まっています”。

『T1』と『T2』では未来世界はあまり描写されず、オープニングやカイルの回想で触れられるのみとなっています。

つまり『T1』と『T2』は未来世界を起点にしているわけではなく、主役であるサラ・コナーが生きている時代を起点とし、劇中の舞台としています。

『T1』と『T2』がサラ・コナーの生きている時代を舞台としている理由は、劇中で歴史が変化する様子が描かれているからだと考えられます。

その起点の時代に未来からT-800やカイルなどがやって来ると、その瞬間、別の歴史がスタートするので、未来からの来訪者が過去にもともと居た人物と戦ったり、愛を育んだりすると、それに応じた新しい未来がつくられていきます。

そしてその時代で起きた現象は時間とともに過ぎ去ると“過去”になり、その過去を前提とした事象(ジョン・コナーの存在、スカイネット誕生阻止など)は確定されます。

『T1』の話でいうと、サラとカイルの間にジョンが生まれたなら、たとえスカイネット誕生を防いでも、ジョンがサラとカイルの子として生まれたことは、確定された事実として存在し続けることになるのです。

つまり『ターミネーター』シリーズでは、その時代(1984年、1994年など)に本来いない存在がやって来たら歴史が変わり、キャラクターがその時代でなにかをするごとに、未来はどんどん変わっていくというわけです。

これらを踏まえたうえで、『ターミネーター』シリーズにおけるタイムパラドックスの考え方について、解説していきます。



ジョン・コナーは誰の子か?

『T1』と『T2』で起こった出来事により、“もとの世界とは別の世界が生まれている”と考えると、ジョン・コナーが誰の子なのかを説明することが可能です。

『T1』の出来事が発生する前、ジョンはサラと“カイルとは違う別の誰か”の子供だった、と考えられます。

それが『T1』の出来事によって歴史が改変され、ジョンはサラとカイルの子として誕生したのです。

事実、『T2』の設定では、スカイネットはジョン誕生を阻止するために彼の父親を殺すシミュレートをしたものの、父親を殺しても“別のジョン・コナー”が誕生するので、ジョンの母親であるサラ抹殺を企てた、とあります。

つまりサラ・コナーこそがジョン誕生の鍵となる存在だったので、スカイネットはサラを抹殺しようと画策したんですね。

また先に述べたように、『ターミネーター』シリーズでは未来からの介入があれば、過去の歴史が変化して上書きされ、新しい歴史が始まります。

未来からターミネーターやカイルがやって来ると、その瞬間にもともとの未来は不確定となり、その時代で起こった出来事によって新しい未来が書かれていきます。

つまりジョンが『T2』でスカイネット誕生を阻止しても、既に“過去にいたサラとカイルの間にジョンが生まれたという事実”は確定しており、未来も不確定なので、ジョンが消滅することはないのです。

スカイネットはどうやって誕生した?

スカイネット誕生についても、『T1』以前はジョンと同様、“サイバーダイン社が1から開発した防衛用コンピュータ”だったと考えることが可能です。

それが『T1』の出来事によって歴史が改変され、スカイネットは“ターミネーターの残骸から完成した防衛用コンピュータ”となったのです。

事実、先に述べたように『T2』には、『T1』の出来事によってスカイネット誕生が2年早まり、1997年に完成したという設定があります。

つまりスカイネットが誕生する経緯も、過去へのタイムトラベルによって上書きされ、変化しているのです。

まとめ

今回は『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスについて、なるべくわかりやすく解説したつもりでしたが、いかがだったでしょうか?

『ターミネーター』シリーズは鑑賞者が想像を巡らせる余地が多く残されており、今回書いたことは、劇中のタイムパラドックスについてこのような考え方もできる、というひとつの例だと考えていただければ、幸いです。






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