徳本です。
以前、私は『ターミネーター』シリーズのタイムパラドックスについて解説しました。
最新作の『ターミネーター:ニュー・フェイト』で語られた設定も、上記の「ターミネーターのタイムパラドックスへの考え方」の解釈と一切矛盾しないものでした。
あらためてここで再び、「ターミネーターのタイムパラドックスへの考え方」で示した解釈を載せておきます。
- キャラクターが過去へタイムトラベルしたことによって、歴史が変化した
- “変化した歴史”は、未来からの介入によって、“本来の歴史に上書きされた世界”である
- 『T1』、『T2』はサラ・コナーのいる時代(1984年、1994年)を舞台としており、それを軸に考える(映画では歴史が上書きされる様子が描かれているから)
- 過去はあくまで“過ぎ去った時間”なので、人物の存在(ジョン・コナー)に、過去という時間自体が介入することはできない
- 未来からの介入で歴史が変化すると、もとの未来は消滅し、その過去に身を置いた者たちの行動によって、別の未来がつくりだされていく
- 別の歴史へ変化すると、もとの未来が消滅するので、もともとの未来に関する因果律は断ち切られる
- 舞台となる時代で起きたことが“過去”になると、それを前提とした事象(ジョン・コナーの存在、スカイネット誕生阻止など)は確定される
これら、及び『T1』、『T2』の内容を踏まえたうえで、今回は『ターミネーター:ニュー・フェイト』で描かれた設定について解説していきます。
今回の内容は、以前の記事を読んでいることと、『ターミネーター:ニュー・フェイト』を観ている前提で話を進めていきます。
また、目次以降は『ターミネーター:ニュー・フェイト』に関するネタバレしかありませんので、未見の方は読まないことをオススメします。
◆この記事の目次
敵のコンピュータと人類が戦争をする未来はなぜ誕生した?
『ターミネーター:ニュー・フェイト』(以下『TDF』)では、新しい敵のターミネーター、REV-9が登場します。
このREV-9は、これまでの作品で出てきた「Tシリーズ」と呼ばれるターミネーターとは、全く別の存在(「REVシリーズ」)です。
そしてこれまで描かれた未来では、“防衛用軍事コンピュータ”、「スカイネット」が人類の「抵抗軍」と戦争を繰り広げていましたが、今回はそれとは全く異なります。
『TDF』の未来では、“対サイバー戦争用コンピュータ”、「リージョン」が人間狩りを行っており、人類はそれに抵抗するために「人類軍」を組織して戦っています。
スカイネットが支配する未来ではなく、リージョンが支配する未来に変化したのは、『T2』の出来事があったからです。
そこに矛盾はなく、既に確定されたジョンの存在は消滅することもありませんでしたし(上記の7に該当)、カイルもどこか別の場所で生きているでしょう。
では、このリージョンが支配する未来はなぜ誕生したのでしょうか。
『T2』で未来を変えても、人類と機械が戦争をするという“運命”は変えられなかったのでしょうか。
その“運命は変えられなかった”は、あり得ないと断言できます。
なぜなら『T1』と『T2』の世界観では、“未来は変えられる”という前提で話が進んでおり、“運命なんてものはない”ということもテーマとして示されているからです。
この“未来は変えられる”、“運命なんてものはない”ということは、『T2』の正式な続編である『TDF』の劇中でも強調され、肯定されています。
その証拠に劇中ではT-800が人々との関わりによって、“殺人AIとしての運命”を変えることに成功しており、“人間と共存可能な、人間を尊ぶAI”となっています。
また、T-800の分析では、REV-9に勝てる確率がたった12%だったにも関わらず、サラたちが奮闘したことによって、その解析を超え、敵に完全勝利を収める展開が描かれています。
そして『TDF』のラストでは、もうひとりの主役であるダニエラ(ダニー)・ラモスがあることを誓います。
それはダニーを護るために未来から来た強化改造兵士、グレースが死ぬという未来を、そして破滅の未来を回避するという決意でした。
これらの描写を見る限り、“運命が変えられなかった”ことにより、リージョンが誕生して人間を滅ぼそうとしたのではない、と考えられます。
ではあらためて触れますが、なぜリージョンが人間と戦争をする未来が生まれたのでしょうか。
それは『T2』の出来事でスカイネット誕生阻止が確定したあと、人間がAIの研究開発を続けたことで、回避できたはずの未来を手繰り寄せたからです。
『T2』のラストで示されたのは、“未来は不確定なもので変化させられる”ということです。
つまり未来が変化するのであれば、人間の行動次第で最悪の未来もつくれるということです。
事実、『T2』のDVDのコメンタリーでは、監督のジェームズ・キャメロン氏が、「未来が変わり続けるのであれば、闘い続けなければならない」と述べています。
このコメントは『T2』でカットされた、“全てが解決された平和な未来のエンディング”についての見解です。
このキャメロン監督の見解は、核や貧困、戦争などの問題がある限り、別の破滅の未来がやって来ないとも限らないという意味だと解釈できるものです。
つまりここでキャメロン監督は、人間が最悪の未来を回避し続けるために努力を続けることが大切だ、と述べているわけです。
彼は『T2』について、“破滅の未来は確実に来ない”とは言っていません。
ですから今回、『TDF』で示されたのは、“確定された運命”などではなく、“回避できたはずの未来を人類が自分から手繰り寄せた結果”です。
おそらく『T2』の“命の尊さを学んだ”T-800、『TDF』の“人間と共存可能な、人間を尊ぶAI”となったT-800の存在が、今後のシリーズの鍵となるのでしょう。
あのT-800の居場所を未来の指導者はどうやって知った?
『ターミネーター:ニュー・フェイト』の冒頭では、審判の日を回避したあとの1998年が描かれています。
そこでは平穏な日常を送るサラ・コナーとジョン・コナーの姿がありましたが、ジョンは突如現れたT-800にショットガンで胸を撃たれ、殺されてしまいます。
そのT-800は任務完了後に去っていきますが、『T2』の出来事によってスカイネットが消滅していたことで、その勝利に貢献できずに目的を失います。
その後、彼は人間社会で人と関わり、自己学習を続けた果てに“人が人を大事に思う気持ち”、“命の尊厳”、“ジョンを殺したことが大罪だったこと”を知ります。
そしてT-800は劇中の2020年にサラたちと再会し、プログラムされていないことをする(ダニーを護る)ために共闘します。
このT-800には、サラたちがグレースの体内に埋め込まれていた座標位置に向かったことによって、会うことができました。
グレースによると、“この座標の位置に頼りになる存在がいる”と、未来のダニーから説明されたといいます。
問題は、この“人間と暮らすT-800の居場所を未来のダニーが知っていたこと”です。
なぜダニーはT-800の居場所を知っていたのでしょうか。
おそらく、グレースとREV-9が過去へタイムトラベルする前(上記の1、2、5、6に該当することが起きる前)に、彼女はT-800の居場所に関する情報を得たのかもしれません。
そして、そのT-800の居場所に関する情報をグレースに託した、と考えることができます。
これと同じく未来のダニーが、“未来は変えられる”、“運命なんてものはない”ことを知っていたのも、サラと関わる以外の、何らかの理由で知ったと考えられるのです。
それがタイムトラベルによって歴史が上書きされ(上記の1、2、5に該当)、過去にT-800と会ったから居場所を知っていた、サラから言葉を聞いたから知っていたへと変わったのでしょう。
まとめ
今回は以前に書いた記事の内容を踏まえ、『ターミネーター:ニュー・フェイト』のタイムパラドックス要素について解説しました。
このように見ていくと、『ターミネーター:ニュー・フェイト』も『ターミネーター』、『ターミネーター2』のタイムパラドックスに対する解釈が、通じる作品だとわかります。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』も『T1』、『T2』と同様、鑑賞者が想像を巡らせる余地が多い作品です。
今回もこの解釈は、劇中のタイムパラドックスに対するひとつの考え方だと思っていただければ、幸いです。