徳本です。
明けましておめでとうございます。
2020年もよろしくお願いいたします。
ところで、この2020年の年明け早々、とんでもないニュースが世界を駆け巡りました。
アメリカがイラン革命防衛隊の司令官である、ソレイマニを空爆で殺害し、イランとアメリカ両国の緊張関係が高まっているというニュースです。
今年の年明けから、世界は中東情勢に注視していますが、日本国内は平和ボケしているからか、日産のカルロス・ゴーンが高跳びしたことばかりを伝えています。
国内のニュースは肝心のアメリカとイランの問題については、あまり取りあげていません。
しかしこのアメリカとイランの緊張関係が高まっているという事実は、決して日本にも無関係なことではありません。
日本のテレビのニュースでは、この問題に対し、「原油の値段が……」、「景気が……」などとのんきなことをいう人々が映っていますが、そんな次元の問題ではありません。
アメリカとイランが戦争に突入した場合、日本の自衛隊がアメリカに都合よく、利用される可能性が高いからです。
今回は、アメリカとイランの緊張関係が高まった経緯と、戦争が起きる可能性、そして日本の自衛隊がアメリカに利用される可能性について解説します。
◆この記事の目次
アメリカとイランの緊張関係が高まった理由
まず、なぜアメリカとイランの緊張関係が高まったのか、その経緯について簡単に解説します。
アメリカによる、イラン核合意離脱の衝撃
もともとアメリカはオバマ政権時の2015年に、イランとの間に「核合意」を結びました。
この「イラン核合意」とは、イランが行っている核兵器開発に対し、アメリカが制限をかけようと結んだものです。
その内容はイランが核兵器開発を制限する代わりに、欧米のイランに対する金融制裁や原油取引の制限を緩和するというものでした。
イランが核兵器開発に必要なウランやプルトニウムを合意締結後、15年間は生産しないことも盛り込まれ、イランの核兵器開発は大幅に縮小されることになりました。
しかしイランへの金融制裁や原油取引制限緩和が盛り込まれていたので、イランはアメリカと結んだこの合意を忠実に履行していたのです。
ところが、2018年の5月に現職のアメリカ大統領であるドナルド・トランプが、この合意から一方的に離脱し、イランへの制裁を再開したのです。
アメリカによって約束を反故にされたイランは当然激怒し、2019年5月に核合意を一部停止すると宣言し、再び核開発に乗り出すこととなりました。
そして2020年の1月5日には、イランはウラン濃縮に関する制限を全て放棄すると宣言しました。
イラン「ウラン濃縮に関する制限を一切放棄」と発表 核合意からの更なる後退
この核合意にイランが同意した理由は、欧米による長期の経済制裁によって、国民の生活が困窮していたからです。
核兵器開発の規模が縮小するとはいえ、経済制裁を緩和してもらえるというのは、イランにとって望ましいことだったと考えられます。
しかしその経済制裁が、トランプの一方的な考えで再開されたとなれば、イランが怒るのも当然だといえます。
アメリカによるイラン革命防衛隊司令官・ソレイマニ殺害と、イラン国内のナショナリズムの高まり
2020年1月3日、世界に衝撃が走りました。
バグダッド空港周辺にいた、イラン革命防衛隊・コッズ部隊の司令官・ソレイマニと、イラクの人民動員隊の副司令官・ムハンディスが殺害されたのです。
ふたりを殺害したのは、アメリカによる空爆でした。
トランプの指示のもと、アメリカ軍はこのソレイマニ、ムハンディスの両者を殺害したのです。
この件以降、イランは喪に服し、アメリカに対する復讐を行うと宣言しており、イラン国内でのナショナリズムも異様な高まりを見せています。
ソレイマニはイランのシリア内戦への介入で軍事作戦に参加し、アサド政権の支配地域を拡大させ、多くの民間人を虐殺した人物です。
そのため、とち狂った人間であることは確かですが、このソレイマニという男はイランで「英雄」とまつりあげられており、イラン国内では、政治家よりも人気のある人物となっていました。
しかしこのソレイマニは、アメリカと親米のイスラエルにとっては「脅威」でした。
ソレイマニは数々の軍事作戦で成功をおさめ、イラク戦争でも「何千もの米兵を殺した」と、アメリカ国内で囁かれていた存在です。
ですからアメリカやイスラエルは、常にソレイマニ殺害計画を練っていたと考えられます。
しかしソレイマニはイラン国内で大きな影響力のある人物であり、彼を殺せばイランとの緊張関係が高まることは必至でした。
イスラエルもアメリカもソレイマニを殺そうと思えば殺せたのに、これ以上イランとの関係が悪化することを恐れて、それを実行してこなかったのです。
それが今回、トランプはソレイマニ殺害の大統領令を発し、その指示を受けたアメリカ軍がバグダッドでソレイマニを殺害したのです。
攻撃した理由は、「戦争を防ぐため」だそうであり、事実、バグダッドのアメリカ大使館襲撃をソレイマニは計画していました。
しかし先に述べたように、今までアメリカはソレイマニを殺そうと思えば殺せたのに、イランとの関係悪化を恐れて今までそれをしてこなかったのです。
上にあげた記事だとこの件は、トランプの大統領選に向けてのアピールであるという見方がされていますが、いずれにしても、イラン国内で影響力の遭った人物を殺したことによる問題は、既に起こっています。
イラン革命防衛隊のアブハムゼ幹部は、「中東にあるアメリカの関連施設やイスラエルの商業都市テルアビブ、ホルムズ海峡を航行する船舶など35箇所を攻撃目標とする」と表明している。
このイランの宣言に対し、トランプは「イラン関連の施設、52箇所を攻撃目標として反撃する」と表明しており、イランへ3000人の米軍を派遣するとしています。
そして2020年の1月5日にはバグダッド北のバラド基地に、ロケット砲による攻撃がありました。
このバラド基地はアメリカも利用しており、イランによる攻撃の可能性が高いと考えられます。
イラク、米大使館近くと米軍使用基地に攻撃 司令官殺害で攻撃激化の懸念
そして2020年1月8日には、アメリカ軍と有志連合に向け、イランが数十発の弾道ミサイルを発射しました。
イラン 米軍に弾道ミサイル 兵士の犠牲確認されず 米メディア
繰り返しますが、現在、アメリカとイランの関係は非常に険悪です。
大規模な軍事衝突が起きる可能性も完全に否定はできません。
そしてそれは決して「対岸の火事」などではなく、日本にも大きな影響が及ぶことなのです。
アメリカとイランが戦争をした場合に考えられる、日本への影響
仮にアメリカとイランが戦争をした場合、明確に考えられる事態は以下のふたつです。
- 原油価格の高騰による、日本経済への大ダメージ
- 自衛隊がアメリカの戦争に付き合わされる
このうち、まずはニュースでもよくいわれている、原油価格高騰について簡単に解説します。
原油価格高騰問題
日本は石油エネルギーを、外国からの輸入に頼っています。
車の運転や料理、電気使用などには密接に石油が関係しており、その価格の変動によって日本経済は大きくゆらぎます。
私はアベノミクスは問題だらけの政策と思っていますが、このアベノミクスが機能しているいないにかかわらず、生活のほとんどを石油に頼っている以上、原油価格が高騰すると経済に大きな影響があるのです。
日本は原油の大部分をサウジアラビアから輸入していますが、そこも日本と同様、アメリカとの関係が深いので、イランによる攻撃の標的になる可能性もあります。
事実、2019年の9月には、何者かによってサウジアラビアの石油施設が空爆されています。
サウジ空爆、「イランが中東揺るがしている」=NATO事務総長
この空爆はイランによるものだという説が有力となっています。
そして2020年の年明けからアメリカとイランの対立がさらに悪化したことによって、原油価格が急騰しています。
国際原油価格が急伸している。指標となるNY原油先物価格は、1月3日のアジア時間に前日比で一時2.66ドル(4.3%)値上がりし、1バレル=63.84ドルに達している。サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けたことで世界の原油供給の約5%が失われ、原油価格が跳ね上がった昨年9月の高値63.38ドルを上抜き、昨年5月20日以来の高値を更新している。
今回のアメリカとイランの対立によって、原油価格が高騰し、それによる日本経済へのダメージは確実に及んでくるでしょう。
自衛隊がアメリカの戦争に付き合わされる問題
そしてアメリカとイランの対立激化による、最大の問題が自衛隊がアメリカによって都合よく利用される可能性があることです。
有名な話ですが、2003年のイラク戦争には当時の小泉純一郎内閣のもと、「イラク特措法」が制定され、自衛隊がイラクへと派遣されました。
このイラク戦争は当時の大統領、ジョージ・W・ブッシュが、「イラクは大量破壊兵器を所持している」と喧伝し、「国連憲章の第51条に基づいたものだ」と盛んに訴えていた戦争です。
しかし国連憲章の第51条は武力攻撃があった際に個別的自衛権を発動できるものですが、当時のイラクはアメリカに武力攻撃をしていませんでした。
また、イラクが大量破壊兵器を保有していた事実も確認できず、のちにブッシュや複数の政府高官が情報操作や捏造を行っていたことが明らかになっています。
つまり、イラク戦争とは実質的に、アメリカによるイラクへの侵略戦争だったのです。
ところが日本政府は、そのイラク戦争に参加したことを正当化させており、「国連憲章の第51条に基づいた戦争」というアメリカのプロパガンダを今だに引きずり、きちんとした検証も行っていません。
ここで読み手の皆さんの頭のなかに浮かぶであろう疑問は、「何故日本はイラク戦争に参加しただけではなく、それをきちんと検証していないのか」だと思います。
それは日本政府がアメリカに積極的に媚びへつらっているからです。
その理由はまた別の機会に言及しますが、ともかくかつてのイラク戦争ではアメリカ国防総省の依頼に応じる形で、日本の自衛隊は後方支援をしたのです。
いや、後方支援というよりも、2万4000人近いアメリカ兵の輸送を行い、基地のある場所に22発のロケット砲による攻撃も受けたので、実質的に参戦したといえます。
問題は、当時よりもアメリカと日本の軍事的一体化が進んでいることです。
2015年に成立した安保法制では、集団的自衛権の行使が容認されました。
この集団的自衛権とは、他国が武力攻撃を受けた場合、それを自国が攻撃を受けたものと同様に考えて、他国を防衛する権利です。
しかしアメリカが武力攻撃を受ける可能性は低く、それどころか武力攻撃を受けていないのに「攻撃されたぁ!」といい張って、他国に戦争を仕掛ける可能性があるのです。
つまり、今回もアメリカは「攻撃されたぁ!」と捏造してイランと戦争をする可能性があるので、どちらにせよ日本の自衛隊が利用される可能性は高いといえるでしょう。
また、2019年の12月27日に日本政府は、自衛隊を中東に派遣する閣議決定を行い、この段階になってもそれを撤回していません。
自衛隊派遣の名目は「調査・研究」らしいですが、なにを調査・研究するのでしょうか?
とにかく、原油価格高騰よりもこちらの問題のほうが深刻です。
日本の自衛隊がアメリカの起こした戦争に放り込まれ、アメリカの軍隊として都合よく戦わされるわけですから。
また、実は集団的自衛権が行使できなくとも、日本の自衛隊はアメリカの軍隊として戦えるのですが、そのことはまた別の機会に解説しましょう。
まとめ
アメリカとイランの問題、そしてそれが日本にも密接に関わってくることについて、解説しました。
日本はシェールガスが出てきたアメリカと違い、中東の原油が欠かせないので、このままだと経済的に大ダメージを受けることは必至です。
また、自衛隊もアメリカの軍隊として参戦させられる可能性があるので、今回のアメリカとイランの問題は、決して日本に無関係ではありません。
今後もこのアメリカとイランの問題に注視していただければ、幸いです。