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朝ドラ『おかえりモネ』を面白いと思う5つの理由

投稿日:2021年12月7日 更新日:

徳本です。

前からこのブログを読んでいる方は、私が連続テレビ小説(朝ドラ)を観ていること、2019年度下半期に放送された『スカーレット』の感想記事を掲載したことなどをご存知かと思います。

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『スカーレット』の感想記事を掲載した2020年から時は流れ、2021年の前半期として放送された朝ドラは『おかえりモネ』という作品でした。

『おかえりモネ』の前作、『おちょやん』は実在の喜劇役者、浪花千栄子氏の生涯をもとに作られた骨太のドラマであり、従来の「波乱万丈路線」を極限まで突き詰めた内容が話題を呼びました。

その『おちょやん』を経て放送された『おかえりモネ』は前作とは打って変わり、従来の朝ドラの既成概念を打ち破った、深みのある高水準のドラマとして完成されていました。

今回は私が『おかえりモネ』を鑑賞し、何故このドラマを面白い、名作だと思ったかについて感想を述べていきたいと思います。ネタバレだらけなのでご注意ください。

『おかえりモネ』を名作だと思う5つの理由

私は『おかえりモネ』の視聴開始前、『おちょやん』のエンディングで表示された『おかえりモネ』の予告を観て少し懸念を抱きました。



画面に映っていたのは「明るく夢に向かって進むイメージ」に見えそうなヒロインの姿と、彼女を支えるであろう周辺の人々で、私は以下のような、本編視聴後ではまず考えられない感想を抱いたのです。

  • 「波乱万丈路線を極め、悲劇的な境遇のヒロインを描いた『おちょやん』の後で、『明るいヒロイン』を描いてもインパクト不足では?」

しかし蓋を開けてみると、私はとんでもない誤解をしたのだとわかりました。

『おかえりモネ』は従来の朝ドラでは考えられない斬新な要素が多数込められ、非常に深いメッセージを宿した、奥行きのある密度の濃いドラマだったのです。

以下は、私が『おかえりモネ』を名作だと思った5つの理由です。

ヒロイン、永浦百音の衝撃的かつ斬新な人物像

『おかえりモネ』のヒロイン、永浦百音(愛称:モネ)は当初、宮城県登米市の森林組合で働く18歳の女性として登場します。

第1週ではモネが気象予報士という職業に興味を抱くまでの過程が丁寧に綴られるのですが、同時に以下の作中事実が彼女の家族同士の会話を通じて、視聴者に語られます。

  • 故郷は気仙沼にある亀島
  • 元々は音楽をやっていた
  • 高校生の頃からそれまでとは変わってしまった

本来気仙沼にいるはずだったモネが何故登米の森林組合で勤務しているのか、何故音楽を止めたのか、何故彼女は変わってしまったのか、その理由は第1週目の最後まで謎に包まれていました。

そして第1週の最後で描かれた場面は、多くの視聴者に衝撃を与えました。

東京からやって来た気象予報士、朝岡覚と共に「気嵐」という気象現象を見たモネの脳裏には、気嵐の中で被災した故郷の姿が去来し、彼女は目に浮かべた涙を静かに流しながら、「私……、何もできなかった……」と呟いたのです。

続く第3週と第4週では、遂にモネの過去と先の言葉を発した理由が判明します。

モネが故郷を離れた理由には東日本大震災が深く関係していました

彼女は「震災時に仙台で音楽を聞いていたことで故郷に戻るのが遅れ、それによって家族や友人達と被災の傷を共有できず、人々が津波で死ぬ姿を目撃して悲しみに沈む妹を慰めることすらできなかった」という深い傷を心に抱えていたのです。

モネの過去は従来の朝ドラでは考えられないほど重く、劇中では彼女がこの心の傷ゆえに「音楽は人の役に立たない」「自分には何もできない」という無力感と傷を共有できない孤独にずっと苛まれ、故郷に居ることに耐えられなくなったということが描かれます。

そんなモネは登米で朝岡と出会ったことで、「未来を予測できる=災害や悲惨な事故から人々の命や暮らしを守れる」気象予報士という職業の本質を知ります。

そしてモネは「もう二度と誰にも自分と同じ苦しみを、皆と同じ悲しみを味わってほしくない。過去のトラウマや無力感を拭い去りたい」というひたむきながらもどこか危うさを抱えた状態で気象予報士を目指すようになるのです。

今までの朝ドラヒロインは「明るく真っ直ぐ夢に向かって突き進む」ことが多かったのですが、モネが気象予報士を目指す理由には震災で背負ったトラウマという影がありました。

彼女にとっての気象予報士とはあくまで「人々を守るための力」であり、その資格を得ようとするのも、資格を得てから働くことも全てが「人々を守るという強い使命感と責任感によるもの」であることが、「自分の実現したいことのために何かをやる」従来の朝ドラヒロインとは大きく異なっていました。

個人的に今後似たようなヒロインを出しても二番煎じと揶揄されるのではないかと思うほど、モネは唯一無二の、朝ドラ史上に刻まれる斬新なヒロインだったと思います。

モネは決して暗い人物ではなく、当初から明るく社交的な側面もある女性として描写されていますが、どこか消極的で無力感を抱え、他者の抱える問題に対して自分ができることは何だろうか? そもそも自分が深く関わって良いんだろうか? と自問する場面も多いヒロインでした。

朝ドラは早朝にやる番組ですから、あまりにも暗い物語にならないよう、モネの人物描写には適度なバランスが保たれるよう志向されているんですね。

モネの心の傷や使命感、守るべきものへの思いなどは一貫して強く描かれ、それがドラマ内のテーマやメッセージに深く結びついていました。

そんなモネが震災で負った傷を癒やし、かつての伸びやかな明るさを完全に蘇らせた上で人として成長するまでが、この『おかえりモネ』という物語のメインストリームとなっているのです。

視聴者にドラマの行間を読ませる心理描写の数々

多くの日本ドラマは、大衆にとって分かりやすい内容、台詞による説明過多、テーマ性に乏しい作品が多い傾向にあります。

朝ドラも例外ではなく、物語内容や人物描写を読み取ることでより深く楽しめるドラマはありますが、それでも分かりやすい場面や台詞が使われる傾向はありました

ところが『おかえりモネ』では、物語を構成する要素や登場人物の思想、背景などは必要最小限しか説明されません

朝ドラでは名物とも言えるナレーションによる解説もあるにはありますが、あくまで気仙沼の牡蠣漁の解説や、モネの祖母が牡蠣や木の芽に転生して彼女を見守っていることなどが少し語られる程度で、全体的にその量は少なめです。

しかも登場人物同士の関係性や過去さえも当初は視聴者にとって全く不明で、単発的な台詞や人物の表情、作中の小道具などの要素で徐々に提示され、物語の進行に伴って完全に明らかとなるという連続ドラマ的手法で描かれています。

登場人物の心理描写も顔の表情や微妙な仕草の変化、場の気配、言葉のニュアンスなどでしか示されません。

それでありながら説明不足ではなく、物語の進行に伴い、登場人物らの思想や背景、物語のメインテーマの具体的な内容が少しずつ分かるようになっています。

つまり『おかえりモネ』は従来の朝ドラや大多数の日本ドラマとは異なり、きちんと内容を読み取ろうとする視聴者であればあるほど、心の琴線に深く触れるドラマとして編まれているのです

しかし特定の視聴者層でなければ楽しめないわけでもなく、例えば気仙沼や登米の美しい自然モネの恋愛描写など、ドラマの表層面だけでも楽しむことは可能です。

ただ、深く物語の内容を読み解こうとするからこそ、『おかえりモネ』というドラマを徹底的に楽しめるので、『おかえりモネ』は視聴者の鑑賞態度が問われる作品だと言えるでしょう。

私はこういった点も『おかえりモネ』の評価ポイントに挙げられると思っています。

心に傷を抱えた者達の再生までの群像劇

『おかえりモネ』で描かれるのは、モネの再生の物語でした。

しかし震災による傷や過去のトラウマは、ヒロインのモネだけにあったのではなく、ほぼ全ての登場人物に各人が抱える問題とそこからの再生、復活の物語がありました。

例えばモネの妹である未知は津波で人が死ぬ姿を目撃して心に負った傷を、姉のモネにぶつけてしまったという過去があり、「自分の言葉のせいでお姉ちゃんは苦しむことになった」という深い悔いを抱えていました。

未知はかつての贖罪と「傷付いた姉の代わりに自分が故郷を支えなきゃ」という思いで牡蠣養殖の道へ進むも、モネが気象予報士という道を見つけて活躍するようになり、「本当に自分がやりたいことはこれなのか?」と葛藤します。

未知は東京で一見自由に仕事をする姉への嫉妬が入り混じった複雑な思いを抱き、モネと対立し、やがて紆余曲折を経てそれまで抱いていた罪の意識や一人で共同体を支える重圧からも解放され、姉と和解します。

このように一人の登場人物だけに着目しても非常に丁寧かつ複雑な心理描写が紡がれることも、『おかえりモネ』の特徴でした。

しかも亀島に居るモネの家族や幼馴染、モネが登米や東京で出会う人々など、ほぼ全ての登場人物にこういった密度の濃い描写がされ、それぞれが抱える深い背景を絡めた再生、復活、気付きの物語が非常に、時には早朝に相応しくないほどシリアスに展開されたのです。

『おかえりモネ』では、心に傷を抱えた者達が答えを見出し進んでいく物語が丹念な描写で紡がれ、ドラマ全体がひとつの群像劇として構成されていました。

登場人物ごとに用意された膨大な背景設定の全てが余すことなく物語の展開に絡められ、複雑かつ緻密に張り巡らされた伏線が巧みに回収されていったことで、『おかえりモネ』は非常に密度の濃いドラマとして完成されたのだと思います。


東洋思想、共同体意識、人間と自然との関係性を込めた脚本

『おかえりモネ』のヒロインであるモネは、「人々を守るため」に気象予報士として活躍します。

彼女達が向き合ったのは、現在の我々視聴者が直面する地球環境異変とそれによって起こる甚大な気象災害であり、ドラマでは「人間はどのようにして自然と向き合うべきか」という問いが登場人物と視聴者に向けて容赦なく突きつけられました。

ドラマ中では以下に代表される「自然との向き合い方」が具体的な事象と台詞によって描かれます。

  • 気象現象の知識を得て自然を知ることで冷静に対処できること
  • 気象の分析を続けて次の災害に備えること
  • 大地や海などの自然はそれぞれ寄り添い合って存在しており、人間は生態系のバランスを調整することに徹するべきことなど

また、『おかえりモネ』前半の「森林組合編(登米編)」では以下の自然を管理する側から見た、行政の具体的な問題も描かれました。

  • 「間伐によって木々の発育を調整し、災害を防ぐ」という重要な役割を担っているはずの森林組合が人々に冷遇されている
  • 公共事業で闇雲に山を削ることで土壌が弱くなり、起こらずに済んだはずの土砂災害が発生する

これらの具体的な事象を踏まえ、『おかえりモネ』劇中では「陰陽五行説」などの、「自然界や生態系、全ての事象のバランスを尊ぶこと」を主眼に置く東洋思想についても触れられます。

つまり『おかえりモネ』では登場人物の動きや作中の事象によって、「乱れた生態系のバランスを人間が正すこと」が環境問題に一石を投じることになると描かれているんですね。

『おかえりモネ』での地球環境問題の扱い方は、単に「環境を守ろう」というスローガン的なものではなく、人間が生態系の仕組みを理解し、問題の実情に適した方法で自然のバランスを取り戻す必要があると具体的に示すものでした。

他にも「何故昔から災害が起こる地域だと分かっていてもそこに住むのか」という問いに対し、「昔から地域の人々が紡いできた伝統や文化が根付いているからこそ、その伝統を絶やさないために住む」という共同体意識の強さと重要性も示されていました。

これらの点を踏まえてみると『おかえりモネ』は、今の日本と日本人に必要なことが徹底的に描かれていた作品だったのだと思います。

「何のために人を守ろう、救おうとするのか」を問う脚本

『おかえりモネ』のヒロイン、モネは「人を救いたい」という一点の曇りもない真っ直ぐな思いで気象予報士として働きますが、物語の進行に合わせて時折、その心に抱えた無力感によって危険な心理状態に陥る可能性が示されます。

第2週ではモネが森林組合の仕事中、遭難した少年を周囲の人々の助力を得て保護し、彼女は少年の家族から「あなたのおかげで助かりました」という言葉を投げかけられます。

しかし少年の家族から感謝されるモネに対し、医師で後にモネの恋人となる菅波光太朗はどこか冷めた目で、「『あなたのおかげで助かりました』という言葉は……、麻薬です」と言い放ちます。

当初は菅波の言葉の意味が分からなかったモネですが、気象予報士として働くようになった中盤以降に台風から故郷の人々を守れたモネは、「人の役に立てた」こと自体を僅かに喜んでしまい、その問題を同僚の神野・マリアンナ・莉子から鋭く指摘されてしまいます。

この一件にモネは大きな衝撃を受け、「果たして自分の思いは本当に人のためのものなのか? 自分は偽善者なのか?」と葛藤し、東京で再会した菅波に対し、かつての「『あなたのおかげで助かりました』という言葉は……、麻薬です」という言葉の意味を問いかけます。

そこで明かされた菅波の過去は、「かつて『あなたのおかげで助かりました』と感謝されて自己陶酔したいがために、重病の患者の負担を無視して手術を勧め、患者の人生を奪ってしまった」という衝撃的なものでした。

つまり『おかえりモネ』では、無力感を抱いたモネが「救世主願望(メサイア・コンプレックス)」に至る危険性が示唆され、そのように「自分が気持ち良くなりたいがために人を助けようとするのは、最も愚かな行為である」と明示したわけです。

メサイアコンプレックス - Wikipedia

これは「人を助けさえすれば、偽善的な考えでも良い」という言論に真っ向から反対する展開でした。

菅波の過去を知ったモネはこれを境に彼との距離を縮めていくことになり、「あなたのおかげで」という言葉を求める心理にならないよう自戒するようになり、本当に「人を守る者」として成長していきます。

『おかえりモネ』東京編中盤の展開は「モネと菅波の心の距離がより縮まる」「モネが悪しき方向へ陥る可能性を示唆しつつ、その問題解決までを自然に描く」という作劇的にも重要な意味を持つものでした。

しかしそれだけではなく、モネの過去を考えると、そこには東日本大震災時に上から目線の「頑張ろう日本」が繰り返され、チャリティの中に売名行為が存在したことへの静かな批判という意味があったのではないかと思います。

『おかえりモネ』の視聴率が低かった理由を考察

『おかえりモネ』は高水準なドラマではありましたが、放送時の視聴率が低く、Google検索のサジェストでも「おかえりモネ つまらない」と表示されるなど実情に反した情報が出てきます。

では『おかえりモネ』は不人気ドラマだったのかというとそんなことはなく、「NHKオンデマンド」や「NHKプラス」といったオンライン配信での視聴者はこれまでよりも増加しています。

「おかえりモネ」期間平均視聴率16.3% NHKプラスやNHKオンデマンドの視聴増加

『おかえりモネ』が今まで以上にNHKオンデマンドなどで視聴された理由として考えられるのは、登場人物達の心理描写、物語の本質が腰を据えて真剣に観ないと分からない作りになっていたからだと思います。

筆者自身も『おかえりモネ』を毎朝15分ずつ観るのではなく、録画した1週間分(月~金までの1時間15分)を一気に観るという方法をとっていました。

そのため『おかえりモネ』の視聴率が低かったからと言っても、私達の知っている数多くの名作同様、それが作品のクオリティを表す指標には決してなり得ません

そういう意味でも『おかえりモネ』は、朝ドラらしくない朝ドラだったと言えるのではないでしょうか。

まとめ:『おかえりモネ』はドラマ史に残る名作である

『おかえりモネ』は東日本大震災や気象災害、過去の間違いによる傷から再生していく人々を描いたドラマであり、そこで示されたのは、地球環境問題への向き合い方や人に何かをする際の教訓、共同体精神など、私達にとって大切なことでした。

丹念に紡がれた厚みのある人物描写と深いメッセージ性は、『おかえりモネ』という作品をさらなる高みの段階へ押し上げたのではないでしょうか。

最終的に『おかえりモネ』という作品は朝ドラや日本ドラマという枠を超えた、ドラマ史に刻まれる名作として完成されたのではないかと筆者は思います。

今後も『おかえりモネ』のような高水準の作品が世に出てくれることを願います。



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