徳本です。
かつて2004年、円谷プロでは「ULTRA N PROJECT」という企画が立ち上がりました。
ウルトラマンノア、ウルトラマンザ・ネクスト、ウルトラマンネクサスの3つの“N”をキーワードとしたこのULTRA N PROJECTは、“新たなヒーロー像の確立”を目指したものでした。
コンセプトは、メディアミックスを駆使して「高年齢層に訴えかける作品を世に出す」というものです。
しかしULTRA N PROJECTは頓挫し、それまでの放漫経営と併せて円谷プロが経営破綻してしまう一因となりました。
ULTRA N PROJECTはなぜ失敗したのでしょうか。
失敗の理由には“マーケティングの不徹底”、“メディアミックスの失敗”、“スポンサーと制作側のターゲット層選定のズレ”があったのです。
◆この記事の目次
ULTRA N PROJECTとは
ULTRA N PROJECTとは、2004年に円谷プロが立ち上げたメディアミックス企画です。
世代を超えて認知されている「ウルトラマン」というコンテンツに対し、それまでとは全く異なる新しいスタイルを確立させることがその目的でした。
最初にULTRA N PROJECTの“第一の使者”として「ウルトラマンノア」が雑誌展開やイベントで登場。
続く10月にはテレビシリーズの「ウルトラマンネクサス」、12月には松竹配給の映画、「ULTRAMAN」が公開されました。
ところが、「ウルトラマンネクサス」が視聴率と商品展開で思ったように振るわず、「ULTRAMAN」も最終的な興行収入は1億円ほどに終わりました。
結果、「ウルトラマンネクサス」は放送短縮(打ち切り)、「ULTRAMAN」も続編の「ULTRAMAN2 requiem」が公開中止となり、ULTRA N PROJECTは商業的に大失敗に終わってしまったのです。
しかしULTRA N PROJECTで展開された作品群は高い完成度を誇っており、今も当時のファンから評価されるだけではなく、新しいファンを生み出し続けています。
ULTRA N PROJECTはなぜ商業的に失敗したのか
なぜULTRA N PROJECTは商業的に失敗してしまったのでしょうか。
ULTRA N PROJECTが商業不振に終わった理由として考えられるのは、以下の3つです。
マーケティング不徹底
最初に挙げられる理由は、「マーケティングの不徹底」です。
ULTRA N PROJECT関連作品のうち、ULTRAMANとウルトラマンネクサスに関しては視聴者への告知不足が目立っていました。
まず、ULTRAMANについては配給元の松竹が宣伝に力を入れず、上映館数を少なくしてしまっていました。
理由は前作の「ウルトラマンコスモス」の主演俳優だった杉浦太陽氏が、警察に誤認逮捕された件にあると言われています。
以降、松竹はウルトラシリーズに対して黄色信号のごとく警戒するようになり、「高年齢層向け」を謳ったULTRAMANのコンセプトにも難色を示したといいます。
結果、ULTRAMANは最終的な興行収入が1億円ほどに終わってしまったのです。
ウルトラマンネクサスは従来と放送時間帯が変わり、土曜の午前7:30に放送されることになったのですが、そのことの告知も不足していました。
結果的には、ネクサスの放映時間帯変更も視聴率低下の一因になったとされています。
視聴者への宣伝・告知不足がULTRA N PROJECTの頓挫理由のひとつとなっているのです。
メディアミックスの失敗
続いて挙げられる要因は「メディアミックスの失敗」です。
ULTRA N PROJECTで最初に展開されたのは、ウルトラマンノアでしたが、実はこの展開は児童向け雑誌で行われました。
ある事情で別宇宙へと飛ばされたウルトラマンノアが、他のウルトラマンと協力して怪獣を迎撃するという内容であり、そのおもなターゲット層は児童でした。
ウルトラマンノアの展開はULTRAMANやウルトラマンネクサスの前日談というべきものでしたが、映像作品は高年齢層を意識したシリーズとして作成されました。
ウルトラマンノアと、ULTRAMANおよびウルトラマンネクサスのターゲット層が全く違うという時点で、メディアミックス的には不自然な状態だったのです。
これらはターゲット層選定のズレと密接に関わった話であり、それによって生じた制作側とスポンサーの認識のズレがやがて深刻な問題となってしまいます。
スポンサーと制作側のターゲット層選定のズレ
最後に挙げられるのは、「スポンサーと制作側のターゲット層選定のズレ」です。
ULTRA N PROJECT関連作品の制作側は、ULTRAMANとウルトラマンネクサスのターゲットを「高年齢層」に設定していました。
ところが関連商品を販売するスポンサーのバンダイは、従来通りの「児童」をターゲットとして設定しており、制作側との認識が大きくズレていたのです。
スポンサーと制作側の認識がかけ離れた結果、ULTRA N PROJECT関連商品の売上は歴代最低レベルにまで落ち込んでしまうこととなり、商業的に頓挫してしまいました。
つまりULTRA N PROJECTが商業的に失敗した要因は、マーケティング関連の問題が大きかったと言えるのです。
ULTRA N PROJECTの失敗を避けるためには
では、ULTRA N PROJECTの商業的失敗を避けるにはどうすれば良かったのでしょうか。
以下は私が、ULTRA N PROJECTの商業的失敗を避けるために必要だったのではないかと思う方法です。
しかしこれはあくまで個人的な考えですから、必ずしもこうでなければいけなかったというわけではないので、ご了承ください。
マーケティングの徹底
最初に挙げられることは、「マーケティングの徹底」です。
そもそもULTRAMANとウルトラマンネクサスは、告知不徹底が問題となって商業的不振となったわけですから、逆にマーケティングを徹底してやれば良かったのです。
たとえば、ULTRAMANは松竹が高年齢層へ向けて積極的に宣伝を行い、ファンや非ファン問わず楽しめる映画だと強調すれば興行収入も変わったかも知れません。
ウルトラマンネクサスも深夜帯での放送が望ましかったとは思いますが、時間変更を広く告知し、少しでも多くの視聴者獲得に努めることが必要だったと思います。
そして後述のようにウルトラマンノアは児童誌ではなく、高年齢層向けの雑誌に実際とは違った表現で掲載すれば、より宣伝効果もあったのではないでしょうか。
メディアミックスを上手く駆使する
次に挙げられることは、「メディアミックスを上手く駆使する」です。
ウルトラマンノアはULTRA N PROJECTのコンセプトを考えると、幼年向け雑誌ではなく、高年齢ファン向けの雑誌で展開すべきだったのではと思います。
たとえば、「ウルトラマンSTORY0」のような漫画、あるいは小説などで展開して物語の流れを掴みやすくすれば、多くのファンが以降の展開も見やすくなったのではないでしょうか。
やはりULTRAMANの公開後にウルトラマンネクサスを放映すれば、各メディアの連携も上手くできたと思うので、それが徹底されていなかったことが残念でなりません。
ターゲット層を一致させるか、ネクサスの放送時間帯を変える
最後に挙げられるのは、「スポンサーと制作側のターゲット層を一致されるか、ネクサスの放送時間帯を変える」です。
もともとウルトラマンネクサスは深夜帯での放映を想定して制作された作品でしたが、諸事情により土曜の午前7:30に放送されることになりました。
結果として時間帯と作風が合わずに視聴者からの苦情、批判があり、ネクサスの放送短縮(打ち切り)の一因になったと言われています。
そのため、やはり深夜帯での放送が実現できていれば、放送短縮という憂き目に遭う可能性は低下したのではないでしょうか。
仮に土曜の午前7:30に放送するとしても、スポンサーに事情を説明し、高年齢層向けの商品を展開できれば結果は違っていた可能性があります。
つまり、制作側とスポンサー側とのターゲットを一致できていれば、商業的失敗は回避できたのではないでしょうか。
まとめ
以上、ULTRA N PROJECTの商業的失敗原因と、それを回避するにはどうすれば良かったかについて見てきました。
当時は“異色作”と呼ばれ、一部からは“失敗作”の烙印を押された本シリーズですが、時の経過がその魅力を引き出してくれました。
今ではULTRAMANやウルトラマンネクサスも、ネット配信などによって多くのファンを獲得する人気作品となっており、制作側によって比較的好待遇されています。
ULTRA N PROJECTは一時的な売り上げでは失敗しましたが、その魅力的な物語と登場人物、設定などによって、時を越えて愛されるシリーズとなったのです。
商業的売上よりも作品の質を重視し、後のシリーズに大きな影響を与えたULTRA N PROJECTは、今後も多くのファンによって愛されていくことでしょう。